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【2026年5月第2週】WTI原油 週次レポート — ホルムズ封鎖・米イラン交渉が招いた乱高下、週間値幅15ドルの衝撃

THE SUPPLIER · 素材カスケード分析

WTI原油 — ホルムズ封鎖・米イラン交渉で週間値幅15ドル超の乱高下

2026年5月第2週(5月4日〜8日)
第1層: 上流ショック(実データ)
WTI原油(週高値)
106.42
USD/バレル(5/4終値)
UAE攻撃受け急騰 +4.3%
WTI原油(週安値)
90.50
USD/バレル(5/7日中)
和平期待で急落 週間値幅15ドル超
国産ナフサ指標
117,498
円/kL(5/2時点)
3月比 +約87%
ドル円レート
156.32
円/USD(5/7時点)
円安継続 輸入コスト増
伝播経路 — 5層カスケード
第1層
原料
WTI原油
週間値幅15ドル超/ホルムズ封鎖10週目
中東産原油
日本の輸入依存94%/ホルムズ経由93%
第2層
中間材
国産ナフサ
117,498円/kL(3月比+87%)
エチレン
三菱ケミカル・三井化学が3月から減産継続
ガソリン・軽油
政府補助で170円/L目標維持中
第3層
中間製品
汎用樹脂
(PE/PP/PVC)
Q2国産ナフサ連動で大幅上昇圧力
包装フィルム・PETボトル
民間ナフサ在庫約20日分/備蓄対象外
塗料・溶剤
関西ペイントら20〜75%値上げ実施
第4層
最終製品
自動車・電機
樹脂部品コスト上昇/部品保険料高騰
食品・飲料
PETボトル・包装コスト転嫁圧力増
医療・建設
医療材料供給制約懸念/建材75%超値上げ事例
第5層
生活・マクロ
家計・CPI
電気料金は7〜8月に本格上昇見込み/日用品値上げ継続
マクロ経済
日銀「物価上振れ特に注意」/インフレ圧力増大
業界別アラート
石油化学(三菱ケミカル・三井化学・旭化成)
エチレン設備の減産を3月から継続中。国内6拠点の半数超で操業抑制
対応中
3月上旬〜継続
最高警戒
食品・包装メーカー
ナフサ由来包装材コスト急騰。転嫁交渉が本格化
値上げ交渉中
Q2〜Q3
要警戒
自動車・電機メーカー
樹脂部品コスト上昇。タンカー保険高騰で部品輸入コスト増
コスト圧力増
Q2〜Q3
注意
医療・介護業界
注射器・点滴バッグなど医療用ナフサ製品の供給制約懸念が浮上
供給懸念
Q2〜継続
要警戒
建設・住宅業界
塗料・シンナー・PVC建材など高騰。工期遅延リスク顕在化
値上げ・遅延
Q2〜
注意
電力・ガス(家計向け)
燃料費上昇の電気料金への転嫁は7〜8月以降に本格化見込み
転嫁待ち
7月以降
モニタリング

結論サマリー

WTI原油は今週、月曜の106.42ドルから木曜の90.5ドルまで週間値幅15ドル超を記録した。

米国がパキスタン経由でイランに停戦覚書を送付し、ホルムズ再開の期待が急騰後の急落を生み出した。

ナフサ国産指標は5月2日時点で11万7498円/kLと3月比約87%の上昇が確認されており、石油化学・自動車・包装の3業界で調達コスト圧力が臨界点に近づいている。

来週のイランの回答次第で相場は再び二桁変動のリスクがあり、現時点での在庫積み増し判断は慎重を要する。

調達担当者は平和合意の確報が出るまで、スポット買いのタイミングを慎重に見極めるべき局面だ。

今週の動き

5月第2週のWTI相場は、地政学イベントと外交交渉の進捗に翻弄され、製造業の調達部門にとって今年最も読みづらい週となった。

IEA(国際エネルギー機関)のビロル事務局長は「1970年代の二度の石油ショックやロシアのウクライナ侵略を超える影響」と言及するなど、市場の緊張は歴史的水準に達している。

週次の終値ベースでは木曜に94.81ドルで引け、金曜は96ドル台に向けて小幅に回復した。

週足では前週末比でおよそ10%の下落となった見通しだが、日中の値幅は過去10年でも例を見ない激しさだった。

直近5日間の値動き

月曜(5月4日)、イランがUAEに弾道ミサイル12発とドローン4機を撃ち込み、フジャイラ石油ハブで火災が発生した。

WTIは前週末比4%超の急騰を演じ、1バレル=106.42ドルで引けた。

火曜(5月5日)は、ヘグセス米国防長官が「米イランの停戦は継続している」と発言し、状況悪化懸念が後退した。

ブレント原油は約4%急落し109.87ドル、WTIは102.27ドルで着地した。

水曜(5月6日)はトランプ大統領がパキスタン仲介による14項目の停戦覚書にイランが同意する見通しと示唆し、エネルギー市場は歴史的な急落に見舞われた。

WTIは一時的に前日比8%超下落し、90ドル前後まで沈んだ。

木曜(5月7日)はイランのモフセン・レザイー師が「米国は賠償金を支払え」と反論したとの報道を受け、値が戻る展開となり94.81ドルで引けた。

金曜(5月8日)は米軍がイランの攻撃を迎撃しつつもホルムズの誘導ミサイル駆逐艦が通過を継続し、96ドル台に向けて小幅続伸している。

今週の主要因

第一の要因は、ホルムズ海峡の実質的な封鎖の長期化だ。

IEAは今週、この紛争が世界の石油供給日量約1400万バレルを混乱させていると警告した。

これは世界の海上石油貿易の約4分の1に相当し、「史上最大の供給途絶」とビロル事務局長が宣言した規模だ。

第二の要因は米イラン外交交渉の不透明さだ。

米国が停戦覚書を送付し、市場が期待に傾いたが、イラン国内では指導部内の意見対立が表面化しており、合意の確定には至っていない。

第三の要因はGCC産油国の生産能力の棄損だ。

サウジアラビアのアラムコやUAEのアドノックが管轄する設備は、紛争による損傷で即時の生産回復が困難な状況が続いており、たとえホルムズが再開されても供給回復のペースは緩やかになる見込みだとゴールドマン・サックスは指摘した。

5層カスケード分析

WTI原油の高騰は、原油コストで直撃される精製・石化だけでなく、日本の製造業サプライチェーン全体を通じ、家計の物価にまで波及する構造を持っている。

第1層と第2層: 原料と中間材

日本の原油輸入の中東依存度は約94%、そのうちホルムズ経由が約93%に達し、原油輸入経路の依存構造は最大級の脆弱性を示している。

高市首相は5月分原油需要の約60%を非ホルムズルートで確保したと表明し、シェブロンが手配したギリシャ船籍タンカーが米国産原油91万バレルをパナマ運河経由で日本に届けた。

5月6日には赤沢亮正経産相がUAEと2000万バレルの追加調達で合意したと日本経済新聞が報じ、代替ルートの確保が外交課題の最前線に浮上している。

5月2日には太陽石油がサハリン2産原油をスポット調達したとも報じられており、封鎖後初のロシア産原油受け入れとして注目される。

中間材段階のナフサは5月2日時点で国産指標が11万7498円/kL(為替:156.63円/ドル)に達した。

3月の62,893円/kLから約87%上昇しており、4〜6月の国産ナフサ価格は11万円を超えるとの見方が業界内で広がっている。

三菱ケミカルグループ、三井化学、旭化成などが3月上旬からエチレン設備の減産を継続しており、国内6か所のエチレン拠点の半数超で操業抑制が続いている。

第3層: 中間製品

ポリエチレン・ポリプロピレン・PVC等の汎用樹脂は国産ナフサ価格に四半期連動する構造を持つため、4〜6月期の原料コストは前期比で大幅に跳ね上がる。

塗料大手の関西ペイントはシンナー類を含む溶剤系塗料の値上げを実施済みで、業界内では20〜30%超の値上げ発表が相次いでいる。

包装フィルム・PETボトル・発泡スチロール等のナフサ依存製品は、国家備蓄対象外で民間在庫が約20日分しかないナフサの供給不安を直接受けており、夏場以降の供給制約が懸念されている。

食品包装分野では、原料費が製造コストの50〜60%を占める構造上、コスト転嫁なしの吸収は困難と複数のメーカーが表明している。

第4層: 最終製品への波及

自動車業界

自動車の製造コストに占める原料費(鉄・アルミ・銅・樹脂)は約30〜40%とされ、樹脂材料コストの上昇が車両生産コストを直撃している。 輸入部品の保険料高騰やタンカー保険の引き受け難も、部品調達コストを押し上げる要因となっている。

電機・半導体業界

半導体製造に不可欠なエチレンや溶剤系化学品の供給不安が生産計画に影響し始めている。 電力コストも火力発電燃料費の上昇を受けて7〜8月以降に本格的に電気料金へ反映される見込みと、電気事業連合会の森望会長が4月23日のインタビューで示した。

食品・飲料業界

PETボトルやフィルム包装等の容器コスト上昇が食品メーカーのマージンを圧迫している。 政府のガソリン補助金により輸送コストの急騰は一定程度抑えられているが、包装材コストは補助の対象外のため直接影響を受けている。

医療・介護業界

注射器・点滴バッグ・カテーテル・透析回路などナフサ由来の医療用品は代替が困難で、医師団体が供給制約リスクを警告している。 手術用手袋や介護施設向けエプロンも同様の原料を使用しており、コスト上昇と供給制約が同時進行している。

建設・住宅業界

塩ビ管・断熱材・シンナー・接着剤など建材の多くはナフサ依存が高く、塗料大手では75%超の値上げ事例も確認されている。 工期延長リスクも顕在化しており、工務店・ゼネコン双方で原材料費の予算組み直しが急務となっている。

第5層: 生活・マクロへの波及

政府はレギュラーガソリンを全国平均1リットル170円程度に抑えることを目標に、3月19日から石油元売り各社への補助金支給を継続しており、消費者の体感価格を一定程度抑制している。

しかしナフサ由来の日用品・食品包装・医療材料については補助の対象外のため、川下への転嫁圧力は着実に蓄積している。

三菱UFJ銀行の経済調査室は、原油価格が年間平均で25%上昇した場合の日本GDPへの影響を試算しており、金融市場の同時株安と組み合わさるとマクロ経済への打撃は相当程度に及ぶと指摘している。

電気料金への影響は本格的に7〜8月に現れる見込みで、家計の実質購買力は夏にかけてさらに低下する可能性が高い。

三井住友DSアセットマネジメントは、ホルムズ封鎖が長期化した場合のブレント原油の第3四半期120ドル到達を複数のアナリストが指摘していると報告しており、CPIへの上昇圧力は長期化の可能性を帯びている。

今後の展望

来週のイランの回答が相場の方向を決定づける最大の変数で、合意成立なら90ドル割れ、決裂なら115ドル再試験のシナリオが並存する。

来週の注目ポイント

最大の焦点は、イランがパキスタン仲介の停戦覚書に対して正式回答を示すかどうかだ。

テヘランは数日以内に回答する見通しとされているが、イラン国内の指導部内で意見対立があることも報道されており、回答の時期と内容は依然として不透明だ。

加えてIEAの月次石油市場レポートの公表や、OPEC+が合意した6月分日量18.8万バレル増産の実効性についての市場評価も相場の方向を左右する。

ベセント米財務長官が5月11日から訪日し、植田日銀総裁らとも会談予定と報じられており、為替動向も原油の円建て輸入コストに影響を与える変数として注視が必要だ。

1ヶ月先の見通し

和平合意が成立した場合でも、IEAは「紛争後の生産回復は段階的」と明示している。

GCC産油国の設備損傷によりアブダビ国営石油会社アドノックの生産回復には一定の時間を要し、ホルムズが再開されてもタンカー保険の引き受け再開には別のプロセスが必要だ。

IMOによれば現時点で約2000隻・2万人の船員がホルムズ海峡で足止めを受けており、物理的な流通回復には数週間から数か月のタイムラグが生じる可能性がある。

米国産原油の輸出が過去最高を更新した事実は、代替供給の拡大余地を示す一方、輸送コストと保険料の上乗せがアジア向け輸入コストを押し上げる構造は変わらない。

6月のWTI平均は、交渉妥結なら85〜95ドル、難航・決裂なら105〜115ドルのレンジを想定しておくのが実務的な判断基準となる。

3ヶ月先の構造的展望

2026年8月末の中期見通しを描くと、三つのシナリオが存在する。

第1は「段階的正常化シナリオ」で、6月中にホルムズが部分再開し、GCC産油国の生産が7月以降に回復を始め、ブレント原油は90〜100ドルに落ち着くケースだ。

第2は「長期膠着シナリオ」で、外交交渉が断続的に継続し、2025年のロシア・ウクライナ停戦交渉のように数か月かけて段階的な緊張緩和が進み、原油価格は100〜110ドル圏で高止まりするケースだ。

第3は「再激化シナリオ」で、交渉が決裂しイスラエルが独自にイランへの追加攻撃を実施した場合、IEA警告通りの供給途絶が深刻化し、ブレントが120ドルを超えて定着する可能性がある。

日本の製造業にとって構造的に重要なのは、OPEC+の増産合意がホルムズ封鎖下では市場へ物理的に届かないという事実であり、価格抑制効果は限定的に留まるリスクが高い。

リスクシナリオ

上方リスクはイスラエルの単独追加攻撃だ。イスラエル国防相カッツ氏は5月7日、「イランに対して再び行動する必要があるかもしれない」と発言しており、合意交渉をイスラエルが棚上げにして独自行動に出た場合、WTIは再び110ドル超まで跳ね上がる可能性がある。

下方リスクは合意成立後の急落だ。停戦覚書への正式合意が報道された瞬間、5月6日水曜のような8%超の急落が再現されうる。

中立リスクは日本の円安加速だ。ベセント財務長官の訪日では日米間の為替水準について議論が行われる可能性があり、円高に振れた場合は国産ナフサ価格の高騰ペースを抑制する一方、製造業の輸出競争力には追い風が吹くという複雑な構図となる。

業界別の対応指針

調達担当者

今週の値動きが示したように、政治ニュース一本で相場は日中に8%超動く。

契約条項に「地政学的リスク条項」が含まれているかを確認し、スポット調達と定期契約のバランスを見直す時機だ。 政府備蓄の放出や UAE追加調達合意など公的支援の情報を常にモニタリングし、代替供給ルートの確保状況を自社の調達リスクマップに反映させることが急務となる。

イランの回答が出るまでの数日間は、大口のスポット手当てを避け、動向確認後に動く方が実務的に安全だ。

経営者

中期的にはナフサ備蓄制度の不備という構造問題が顕在化している。

自社のナフサ依存度と代替原料への転換余地を経営課題として位置づけ、設備投資計画に原料多様化のシナリオを組み込む判断が求められる。

7〜8月の電力料金本格上昇と製品値上げの転嫁タイミングを重ね合わせ、第3四半期の収益見通しを保守的に再設定しておくことが望ましい。

投資家

WTI原油のボラティリティが週間値幅15ドルを超える局面は、エネルギー関連株と化学株のディスパージョン戦略が有効だ。

INPEX・ENEOSなど上流・精製企業は原油高の恩恵を受けやすく、ナフサコストが増加する樹脂・包装メーカーとのスプレッド取引も選択肢となる。

よくある質問

Q1: 今週、WTI原油はなぜこれほど激しく動いたのですか?

米国がイランに停戦覚書を送付したとの報道が和平期待を急激に高め、一方でイランが即座に反発したため、期待と失望が数日の間に繰り返されたことが原因です。

ホルムズ海峡という世界の海上石油貿易の25%を占める要衝の「開く・閉じる」が価格を直接動かす局面が続いています。

Q2: この動きはいつまで続きますか?

イランの停戦回答が出るまでは高ボラティリティが続く見込みです。

合意成立でも生産回復には数か月かかるため、価格の完全な落ち着きは秋以降になる可能性が高いと複数のアナリストが指摘しています。

Q3: 自社の調達戦略にどう影響しますか?

ナフサ・樹脂・エチレン等を使う企業はQ2の原料コストが前期比で大幅上昇します。

価格転嫁の交渉や在庫の積み増しタイミングを、イランの回答後に判断するのが現実的な方針です。

Q4: 為替の影響はどのくらいですか?

5月8日現在の円ドルは156円台前半で推移しています。 原油の円建て輸入コストは、ドル建て価格の変動に為替変動が掛け合わさるため、ドル高・円安が続く現状では日本側のコスト負担は国際価格以上に重くなっています。

Q5: 来週注目すべきイベントは?

イランのパキスタン経由での停戦回答の有無が最大の焦点です。

加えてベセント米財務長官の訪日(5月11日〜)と日銀の政策動向、IEAの月次レポートの三点が相場と円建て原油コストを左右します。

まとめ

今週のWTI相場は3つの構造的事実を浮き彫りにした。

第1のポイントは、ホルムズ海峡封鎖が日本のエネルギー安全保障の急所を直撃しているという現実だ。

中東依存度94%・ホルムズ経由93%という日本の原油輸入構造は、停戦合意一本で相場が10%超動く環境を生み出しており、代替ルートの整備と政府備蓄の活用は単なる緊急対応ではなく構造改革の課題となった。

第2のポイントは、ナフサ価格が3月比87%上昇という事実が、製造業全体に3〜4か月のタイムラグを経てコストとして顕在化しつつあるという点だ。

三菱ケミカルや三井化学のエチレン減産が続く中、Q3の国産ナフサ連動価格は高止まりが避けられず、樹脂・包装・自動車・電機の各業界で価格転嫁の判断が迫られている。

第3のポイントは、外交交渉の解決を待ちながらも、最悪ケースに備えた複線的な調達計画が求められるという点だ。

イランの回答が得られるまでの数日間は、大口スポット調達を控え、UAE・米国・サハリン2の代替ルートを軸に在庫水準を維持する現実的な戦略が、リスク管理上の最低限の構えとなる。

今週の15ドル超の値幅は異常でも例外でもなく、ホルムズ封鎖が続く限り繰り返される「新常態」と理解することが、製造業の現場対応の前提となっている。

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