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銅 史上最高値の後の反落、鉱山生産は2017年以来初の減少へ
結論サマリー
LME銅3カ月物は9月8日に史上最高値1万4875ドルを付けた。
その後は利益確定売りに押され、11日の現物決済値は1万4238.5ドルまで下げた。
米国の精錬銅関税を巡る思惑と、上期1.1%減という鉱山生産の縮小が相場の両輪だ。
国内銅建値は9月11日に9万円下げ、1トン228万円となった。
原料高はすでに電線と変圧器まで届き、店頭価格への波及はこれから本格化する。
今週の動き
記録更新と急反落が同じ週に同居した、神経質な5営業日だった。
週明け7日のLME銅現物決済値は1トン1万4540ドル。
8日には取引時間中に1万4875ドルを付け、史上最高値を更新した。
しかし9日以降は流れが変わる。
サクソバンクのオーレ・ハンセン氏は、短期と長期の材料にずれが生じていると指摘する。
RSIが70を超える買われ過ぎ水準の継続も、調整を呼び込んだ。
週末11日の現物決済値は1万4238.5ドルで、週明けからの下落率は約2.1%。
それでも年初来では約19%高い水準にある。
直近5日間の値動き
9月7日の現物決済値は1万4540ドルで、前週末比169ドル高で始まった。
8日は1万4737ドルまで上げ、決済ベースでも過去最高を記録した。
9日は1万4672ドルと小幅安。
10日に1万4390ドルへ282ドル下げ、調整局面が鮮明になった。
11日は1万4238.5ドルで着地している。
LME指定倉庫在庫は7日の23万6475トンから11日の23万4475トンへ2000トン減った。
価格が下げても在庫は積み上がらず、現物需給の締まりは崩れていない。
今週の主要因
第一に、米国の関税政策を巡る不透明感である。
商務省は精錬銅カソードへの関税勧告を6月30日期限で提出済みだが、政権は内容を公表していない。
2027年1月に15%、2028年1月に30%という段階導入案が観測として残る。
第二に、鉱石供給の細りだ。
国際銅研究会(ICSG)によれば、2026年上期の世界鉱山生産は前年同期比1.1%減となった。
チリ、インドネシア、コンゴ民主共和国の3大産地が揃って減産している。
モルガン・スタンレーは、2017年以来初となる年間ベースでの鉱山供給減を予測する。
第三に、中国の需要鈍化がある。
8月の未加工銅輸入は38万2000トンで、7月の42万5000トンから減った。
8月としては6年ぶりの低水準になる。
7層カスケード分析
鉱山の減産が、日本の家庭の電気料金にまで一本の線でつながっている。
今回の高値局面が過去と違うのは、上流の供給制約と下流のAI・電化需要が同時に起きている点だ。
7層それぞれで価格転嫁の進み方が分かれる。
上流ほど即時に、下流ほど遅れて、そして薄く伝わる。
第1層と第2層: 上流原料と一次加工材
第1層の銅精鉱は、数量と加工賃の両方が異常値を示している。
2026年の年間TC/RCベンチマークは1月に1トン0ドルで決着した。
年間交渉として過去最低であり、スポットTC/RCも2024年以降マイナス圏が続く。
製錬所が精鉱を買うほど赤字になる構造である。
数量面では、ICSGの集計で上期の世界鉱山生産が1.1%減った。
チリは第2四半期が少なくとも19年ぶりの低水準で、通年ガイダンスを2.6%減へ下方修正している。
コデルコとフリーポート・マクモランはいずれも二桁の減産だ。
グラスベルグ鉱山も2025年9月の土砂崩落事故から回復途上にある。
フリーポートは稼働率を現在40〜50%とし、完全復旧を2028年初に後ろ倒しした。
2026年の生産見通しも10億ポンドから7億ポンドへ引き下げている。
第2層の電気銅では、国内銅建値が9月11日に237万円から228万円へ9万円下げた。
ドル円が154円ちょうど近辺まで戻したことも建値を押し下げている。
ただし2026年のPPC長期契約プレミアムは1トン330ドル。
前年の88ドルから約3.8倍で、調達コストの底上げは続く。
第3層: 中間材料
銅条、銅板、銅線材といった伸銅品は、建値連動で機械的に価格が動く層だ。
日本伸銅協会は中期需要が2026年度に70万トン台へ回復すると見ていたが、実際のペースは緩い。
この層の問題は価格水準よりも建値改定の頻度にある。
9月だけで1日240万円、3日237万円、7日235万円、10日237万円、11日228万円と5回動いた。
月内で12万円、率にして5%の振れ幅だ。
加工賃を乗せて売る伸銅メーカーには、在庫評価損益の管理が重い負担になりつつある。
第4層: 部品・素子
電線とケーブルが、銅価格の影響を最も素直に受ける部品層である。
日本電線工業会によれば、2026年6月の銅電線出荷銅量は5万400トン。
前年同月比1.1%減、前月比10.3%増だった。
部門別では建設電販が2万2700トンで1.6%減、電機が1万700トンで3.9%増。
自動車が8700トンで5.2%増と伸びる一方、電力向けは3400トンで7.7%減、輸出は1000トンで15.5%減だった。
数量が伸び悩むなかで、メーカーは価格改定を積み重ねてきた。
フジクラ・ダイヤケーブルは2026年4月6日、ほとんどの品種で4〜7%の値上げを表明し、6月から順次実施している。
巻線やコネクタ、プリント基板の銅箔も同じ方向を向いている。
第5層: 組立品・中間製品
変圧器と配電盤が、いま最も需給の締まっている組立品だ。
データセンターの急拡大により、大型変圧器は全国的に不足している。
納期が年単位に延びる案件も出ており、価格交渉力は売り手側にある。
東芝エネルギーシステムズは送変電機器事業の増産投資を大幅に拡大した。
EVモーターの巻線とエアコンの熱交換器も、銅使用量が大きいサブアセンブリだ。
この層は供給側の能力制約が同時に効くため、価格転嫁が通りやすい。
逆に言えば、銅価格が下がっても製品価格は簡単には下がらない。
第6層: 最終製品への波及
空調
ルームエアコンは2027年の省エネ基準改定を控え、値上げと在庫調整が重なる局面にある。
熱交換器の銅使用量が多く、原料高の影響を受けやすい。
自動車とEV
EVは内燃機関車の3倍前後の銅を使う。
ハーネスとモーター巻線の調達コストが車両原価を押し上げている。
データセンター
従来型施設で1件あたり5000〜1万5000トン、AI向け超大規模施設では最大5万トンの銅を使う。
2030年には年間50万トン超の消費が見込まれる。
住宅・建築設備
建設電販向けの電線出荷は前年割れが続く。
着工の弱さが、価格転嫁の余地を狭めている。
再生可能エネルギー
太陽光と洋上風力は単位出力あたりの銅使用量が大きく、連系工事の資材費上昇が事業採算を圧迫している。
第7層: 店頭・家計・マクロへの波及
家計に最も早く届く経路は、店頭価格ではなく電気料金である。
大手電力10社は2026年10月検針分で全社が値上げとなった。
前月比の上げ幅は中部電力ミライズが510円で最大、北陸電力が351円で最小。
月260kWhの標準家庭では、北海道電力が1万410円、中部電力ミライズが8211円、関西電力が6989円となる。
政府の電気・ガス料金支援は9月検針分の1kWhあたり3.5円を最後に縮小し、11月検針分以降は終了する見込みだ。
さらに送配電8社の託送料金が2026年11月から引き上げられる。
総務省の消費者物価指数では、2026年7月の生鮮食品を除く総合が前年同月比1.8%上昇。
生鮮食品とエネルギーを除く総合は1.9%上昇で、6月の1.7%から加速した。
電気代とガス代のマイナス寄与は6月の0.10%から7月の0.01%へ縮み、エネルギーは物価の下押し要因でなくなりつつある。
今後の展望
短期は調整、中期は高止まり、長期は構造的な不足というのが基本線だ。
来週の注目ポイント
最大の焦点は米政権による精錬銅関税の判断である。
商務省勧告の内容が公表されれば、COMEXとLMEの価格差が一気に動く。
LMEの現物と3カ月物のスプレッドは1トン41ドルまで縮小した。
8月中旬の436ドルからの急縮小は、現物逼迫の緩和を示唆する。
このスプレッドの再拡大が、上昇再開の先行指標になる。
10月1日にはJX金属や三菱マテリアルなど4社の統合会社が発足し、国内の販売条件交渉に影響が出る可能性がある。
1ヶ月先の見通し
シティは1年以内に1トン1万5000ドルへ到達するとの見方を示している。
ゴールドマン・サックスも年末目標を1万3735ドルへ引き上げた。
一方で中国の輸入減速は無視できない。
8月の未加工銅輸入が6年ぶりの低水準となったのは、川下の買い控えが実体化した証拠だ。
向こう1カ月は1万3800ドルから1万4900ドルのレンジを想定したい。
国内銅建値は220万円台から240万円台の振れが続きそうだ。
3ヶ月先の構造的展望
四半期単位で見ると、需給の絵は引き締まったままだ。
パンパシフィック・カッパーは2026年の世界需給を37万2000トンの不足と予測している。
2025年の14万9000トン不足より深刻化し、2027年も12万トンの不足が続く見通しだ。
ゴールドマン・サックスは米国を除いた2026年の不足を64万トンと見る。
調査会社CRUも63万9000トンの供給過剰予測を取り下げ、実態は不足市場だとの見方に転じた。
IEAは2035年までに30%の供給不足が生じるとし、鉱石品位が1991年比で40%低下したことを指摘した。
新規鉱山は発見から生産まで平均17年を要する。
供給側の解は3カ月では出ない。
12月からの2027年TC/RCベンチマーク交渉が、次の大きな節目になる。
リスクシナリオ
上振れは、米政権が精錬銅への関税を正式決定する場合だ。
米国外の在庫がさらに細り、1万5000ドル突破が現実味を帯びる。
下振れは、中国の不動産と製造業の減速が長引く場合になる。
高値疲れの買い控えが広がれば、1万3000ドル台前半までの調整もあり得る。
三つ目は製錬所の連鎖停止だ。
TC/RCがゼロ近辺で固定されれば、アジアのカスタム製錬所で追加の減産が出る。
地金の供給制約が、鉱石不足とは別の経路で価格を押し上げる。
業界別の対応指針
調達担当者
銅建値の月内変動が5%に達している以上、月次平均建値での契約条件を再点検したい。
電線とケーブルは値上げが実施済みであり、数量コミットと引き換えの条件交渉が有効だ。
変圧器とキュービクルは価格よりも納期を優先し、2027年度着工分まで先行発注を検討すべき局面にある。
経営者
製錬能力の国内再編は2027年3月の小名浜製錬停止で一段進む。
国内で電気銅を安定調達できる前提が、静かに変わりつつある。
リサイクル原料への切り替えと長期契約比率の引き上げを、中期計画に織り込む時期だ。
銅使用量そのものを減らす設計変更も、いまなら投資回収年数が短い。
投資家
製錬各社はTC/RCゼロの直撃を受け、銅価格の上昇が業績に結びつきにくい。
鉱山権益を持つ商社と、値上げが通る電線メーカーで収益構造が分かれている。
よくある質問
Q1: 今週、銅はなぜ上昇後に反落したのですか?
9月8日に史上最高値1万4875ドルを付けた後、買われ過ぎ水準から利益確定売りが出たためだ。
中国の8月輸入が6年ぶりの低水準だったことも響いた。
Q2: この動きはいつまで続きますか?
米政権の精錬銅関税の判断が出るまで、高値圏での振れが続きやすい。
鉱山生産は2017年以来初の年間減少が見込まれ、需給の締まりは2027年まで続く。
Q3: 自社の調達戦略にどう影響しますか?
月次建値の振れ幅が5%に達し、四半期固定価格での購入は不利になりやすい。
電線と変圧器は価格より納期の確保を優先したい。
Q4: 為替の影響はどのくらいですか?
円安が1円進むと素材輸入コストは平均0.7〜0.9%上昇する。
9月11日のドル円は154円近辺で、建値の下方改定要因になった。
Q5: 消費者の店頭価格にはいつ反映されますか?
原料から店頭までの完全転嫁には平均6〜9カ月かかる。
ただし電気料金だけは、託送料金改定を通じ2026年11月以降に先行して効く。
編集部解説:日本への波及
日本にとっての銅問題は、価格ではなく製錬能力の話になりつつある。
地金を買う話から、地金を作り続けられるかという話へ論点が移っている。
日本の主要業界への影響
非鉄製錬業界の再編が、2026年後半に一気に動く。
三菱マテリアル、JX金属、三井金属、丸紅の4社は2026年5月28日に最終契約を締結した。
銅精鉱の購入と電気銅などの販売事業を、パンパシフィック・カッパーの子会社へ統合する。
統合期日は2026年10月1日。
出資比率はJX金属32.5%、三菱マテリアル32.0%、三井金属21.9%、丸紅13.6%となる。
TC/RCが年間ベンチマークでゼロまで落ちた以上、単独交渉では買鉱条件を取り返せないという判断だ。
三菱マテリアルは2026年3月25日、小名浜製錬所の銅精鉱処理を2027年3月末で停止すると発表した。
電解工場は操業を継続し、E-Scrap処理などのリサイクル事業へ重心を移す。
JX金属も大分の製錬工場に焼却炉を増設し、銅の再生処理能力を1.5倍へ引き上げる方針だ。
精鉱から地金を作る事業から、スクラップから地金を作る事業への転換が鮮明になった。
需要側では、電線各社が値上げを積み上げている。
住友電気工業と古河電気工業は、データセンター向け光ケーブルと電力ケーブルの好調が原料高を吸収している。
一方、建設電販向けは2026年6月時点で前年同月比1.6%減であり、値上げが数量を削る構図が残る。
ダイキン工業などの空調メーカーは2027年の省エネ基準改定を控え、旧基準機の在庫を計画的に絞り込む局面だ。
一方の自動車向け電線は前年同月比5.2%増と堅調で、ハーネス各社の価格転嫁交渉も進みやすい。
商社マン視点の先読みポイント
丸紅が今回の統合会社に13.6%出資したことで、商社が製錬の川上から販売の川下まで一本で握る体制が整う。
三菱商事と三井物産はチリの隣接鉱山で共同操業に踏み込み、三菱商事はペルーで年間30万トン規模の生産を立ち上げた。
権益を持つ商社にとって銅高は素直な増益要因だが、製錬マージンは別勘定であり両者は連動しない。
いま商社の金属トレーダーが見ているのは、価格水準ではなく三つのスプレッドだ。
第一にCOMEXとLMEの価格差で、米国の関税判断が出るまでこの差が在庫のロケーションを決める。
第二にLMEの現物と3カ月物のスプレッド。
9月11日時点で1トン41ドルまで縮み、8月中旬の436ドルからの急縮小は目先の逼迫が一段落したことを示す。
第三にTC/RCで、12月からの2027年ベンチマーク交渉が最大の山場になる。
需要家には、2027年上期分までの長期契約比率を引き上げる提案が通りやすい。
建値が228万円まで下げた今は、年間固定を取りに行く数少ない窓になる。
スポット調達は、関税判断の公表を挟んで価格差が開く場面を狙う。
海上運賃は中東航路次第で振れるため、CIF建てとFOB建ての使い分けを詰めておきたい。
ヘッジは3〜6カ月先を中心に置くのが実務的だ。
地政学リスクではグラスベルグの復旧ペースとチリの天候が最大の変数だが、どちらも自社では制御できない。
だからこそ調達先の分散とリサイクル原料の確保が、最も投資対効果の高い打ち手になる。
まとめ
今週の銅相場は、記録更新と反落が同居する転換点を示した。
9月8日の1万4875ドルは通過点であり、方向感は米国の関税判断待ちだ。
在庫が減り続けている以上、下値は限定的と見るのが自然になる。
日本の論点は、価格よりも製錬能力の維持に移っている。
10月1日の4社統合と2027年3月の小名浜停止が、その象徴になる。
家計への波及は、店頭価格より先に電気料金から始まる。
10月検針分で大手10社が値上げし、11月には補助金終了と託送料金改定が重なる。
銅は電化社会の血管であり、その価格は最終的に全産業のコストに現れる。
上流の供給制約は3カ月では解けない。
いま打てる手は、長期契約と設計変更とリサイクルの三つに絞られる。
出典
- LME Copper 公式ページ(London Metal Exchange)
- 三菱マテリアル「銅精鉱の購入・電気銅等の販売に係る事業の統合に関する最終契約書の締結について」
- 小名浜製錬「当社における銅精鉱処理の停止について」
- 総務省「2025年基準 消費者物価指数 全国 2026年7月分」
- 日刊鉄鋼新聞「フジクラ・ダイヤケーブル/各種電線・ケーブル値上げ」
- IEA「Copper prices have hit record highs, but smelters face mounting strategic pressures」
- 一般社団法人日本電線工業会 統計資料
- 東京電力エナジーパートナー「燃料費調整のお知らせ(2026年10月分)」
- 財務省貿易統計
- 国際銅研究会(International Copper Study Group)
- MINING.COM「Copper price pauses below record as China’s imports slump, mine supply heads for first drop since 2017」




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