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合成ゴム(SBR等)|5〜7月期 国内大口価格435〜499円と史上最高値 ブタジエン副産物経路の崩壊
結論サマリー
自動車タイヤ向けの指標品種であるSBR(スチレン・ブタジエンゴム)の5〜7月期の国内大口取引価格が1kg当たり435.5〜499.5円となり、2〜4月期比で153円(49%)高と史上最高値を更新した。
日本経済新聞が5月21日頃に報じたこの数字の背後にあるのは、ナフサクラッカーの稼働率低下というシンプルかつ構造的な問題だ。
ナフサを分解してエチレン・プロピレン等を製造する際にブタジエンが副産物として得られるが、クラッカー稼働率が下がるほどブタジエンの産出量が減少し、SBRの原料コストを直撃する。
アジア北東部のブタジエン価格は2025年12月の0.96ドル/kgから2026年3月に1.36ドル/kgへと3ヶ月で41.7%急騰しており、この上昇分が5〜7月期のSBR価格に前倒し転嫁された格好だ。
旭化成・日本ゼオン・ENEOSマテリアルという国内3極の合成ゴムメーカーは、原料コスト高騰を価格改定で前倒しに転嫁しながら稼働維持を図っている。
一方で信越化学工業は米国のエタン由来エチレン設備を持つためナフサ制約の直接影響を受けにくく、株価が他の石化各社と明暗を分けている。
今週の動き
合成ゴム市場において5月第4週(19〜22日)は、化学大手が5〜7月期の国内大口価格の最終値を提示した時期に重なっており、業界内の調達交渉が最終局面を迎えていた。
国内の合成ゴム取引価格は3ヶ月ごとに原料価格の変動を反映させて決まる仕組みだ。
2026年2〜4月期のSBRが255〜285円/kgという従来の記録的水準から、5〜7月期は435.5〜499.5円/kgへと前期比で153円の大幅引き上げとなった。
スポット取引はさらに高い水準にあるとみられており、タイヤメーカーの購買担当者の間では「フォーミュラベースの大口価格でも450〜500円台に達するのは初めてだ」という声が聞かれる。
直近5日間の値動き
合成ゴム現物市場に日次の価格公表機能はなく、3ヶ月ごとのフォーミュラ価格改定が主体となる。
ただし、週を通じての動向としては、月曜(19日)から水曜(21日)にかけてのアルアラビーヤ誤報騒動がナフサ急落を一瞬引き起こし、合成ゴムの次期コスト構造に関する観測が一時的に改善した場面があった。
しかし否定後にナフサが元水準に戻ると、合成ゴムの原料コスト高という構造は変わらなかった。
木曜・金曜(21〜22日)はイラン核問題の溝が再確認され、ナフサ継続逼迫の観測が強まったことで、合成ゴムの5〜7月期高値維持という見通しに変化はなかった。
今週の主要因
第1の要因は、ナフサクラッカーの稼働率低下だ。
ホルムズ海峡封鎖によるナフサ輸入量の激減で、国内ナフサクラッカー(エチレン分解炉)の稼働率が平均70%台に低下している。
クラッカーはナフサを分解する際にエチレン・プロピレンとともにブタジエンをコプロダクトとして産出する。
稼働率が下がるとブタジエンの産出量が比例して減少し、副産物であるがゆえに自由に増産できないという構造的な制約が生じる。
第2の要因は、スチレンモノマー(SM)の高騰だ。
SBRのもう一方の主原料であるスチレンモノマーは、原料のベンゼン高を映して8%程度値上がりしており、SBRコストをブタジエン・SM双方から挟み撃ちにする状況が続いている。
第3の要因は、化学大手による「将来コスト前倒し転嫁」という異例の判断だ。
日経報道によれば、化学大手は5〜7月期の価格において「将来にかけて予想されるコスト増加分を前倒しで転嫁した」という。
通常の四半期フォーミュラ連動を超えた先取り転嫁が行われたことは、メーカー側がナフサ逼迫の長期化を確信していることの表れだ。
7層カスケード分析
合成ゴムの7層カスケードはナフサという化石燃料に端を発し、ブタジエンというニッチな化学品を経由して、タイヤ・工業用ゴム製品という幅広い最終製品に波及する構造を持つ。
天然ゴムと異なり農産品ではないため、生産量を原則として設備能力と原料調達量の範囲内で制御できるが、今回のナフサ逼迫はその上限を大幅に削り込んでいる点が深刻だ。
第1層と第2層: 上流原料と一次加工材
第1層は原油精製工程で得られるナフサだ。
国産ナフサ基準価格は2026年1〜3月期に大幅上昇し、4〜6月期もその上昇分が反映され続けている。
ナフサクラッカーの稼働率が70%台に低下した状態では、クラッカーから産出されるC4留分(ブタジエンを含む)の絶対量が減少する。
アジア北東部のブタジエン価格は2026年3月に1.36ドル/kgまで上昇しており、同期間(2025年12月〜2026年3月)の上昇率は41.7%に達した。
ストレート分解で産出されるブタジエンが減ることで、C4ラフィネートからのブタジエン抽出コストも押し上げられ、商業用ブタジエン市場のタイト感が一層強まっている。
第2層はナフサクラッカーで産出したブタジエンとスチレンモノマーを原料として重合するSBR製造工程だ。
国内の主要製造拠点はENEOSマテリアル(川崎・徳山)・旭化成(大分・シンガポール)・日本ゼオン(川崎)であり、それぞれが今次ナフサ危機の直撃を受けている。
信越化学工業は米国テキサス州の自社設備でエタン由来エチレンを製造しており、ナフサ制約とは独立した原料調達ができる点が他社との最大の差別化要因となっている。
第3層: 中間材料
第3層は各種グレードのSBR・BR・NBR・EPDMといった合成ゴム製品が顧客企業に供給される段階だ。
乳化重合SBR(E-SBR)はタイヤトレッド・工業用ゴム品の汎用品として最大量産されており、今次価格改定の中心となっている品種だ。
溶液重合SBR(S-SBR)は低燃費タイヤ向けの高機能品で、旭化成がS-SBRで世界シェア首位を維持している。
EV普及に伴い低転がり抵抗タイヤの需要が増加しており、S-SBRはE-SBRよりも成長性の高い品種だが、同様にブタジエン高騰の影響を受ける。
NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)の2〜4月期の国内大口価格は370〜430円/kgで前期比30円高だったが、5〜7月期はさらに上昇する見通しだ。
NBRはブタジエン(約60%)とアクリロニトリル(約40%)が原料であり、ブタジエン高騰が原価を直撃している。
第4層: 部品・素子
第4層では合成ゴムを素材としたタイヤ各部品(トレッド・サイドウォール・ベルト・ビード等)と自動車部品(オイルシール・ホース・防振ゴム・ブーツ等)が製造される。
タイヤはトレッドにSBR/BR混合コンパウンド、サイドウォールにBR/天然ゴム混合、インナーライナーにブチルゴム(IIR)という多層構造で構成されており、SBRとBRの両方が高騰することで1本当たりの製造コストが大きく上昇している。
自動車用オイルシール・ガスケット等には耐油性のNBRが使われており、エンジン周辺部品のコスト増が続いている。
防振ゴム・エンジンマウントには天然ゴムを使うことが多いが、タイヤと同様に今次危機の影響から逃れられない状況だ。
建設・産業機械向けゴムホース・ベルト・コンベアベルト等にも汎用SBR・BRが使われており、インフラ・製造現場の維持コストを間接的に押し上げている。
第5層: 組立品・中間製品
第5層では完成タイヤが最大の組立品として位置する。
SBRの5〜7月期の大口価格が史上最高値を更新したことは、ブリヂストン・住友ゴム工業・横浜ゴムのタイヤ製造コストに直接の上昇圧力をかける。
横浜ゴムが6月1日から市販用乗用車タイヤを平均5%値上げすることを4月2日に発表したのは、この合成ゴムコスト高騰を先読みした判断だ。
自動車用ゴム部品の組立品(エンジンマウントアセンブリ・防振ゴムサブユニット等)のコストも上昇しており、一次部品サプライヤーからの価格改定要求が自動車メーカーに届いている。
工業用ゴムホース・コンベアベルトの製造コスト上昇は、採掘・物流・食品加工業界の設備維持コストに転嫁される。
第6層: 最終製品への波及
自動車業界
タイヤコストの上昇は、新車装着タイヤの調達コスト(自動車メーカー向け)と市販タイヤの店頭価格(消費者向け)の両方に波及する。
自動車1台に使われるゴム(天然・合成計)は約50〜60kgであり、コンパウンド価格の49%上昇は1台当たり数千〜数万円規模の原材料費増に相当する。
タイヤ補修・交換業界
市販タイヤの価格上昇は、タイヤ専門店・カーディーラーの交換作業収益を圧迫しつつ、販売単価を押し上げる二面性がある。
消費者の交換サイクルの延長(使用限界ギリギリまで使い続ける)というリスク行動が増加するという副作用にも注意が必要だ。
産業機械・建設業界
コンベアベルト・ゴムホース等の工業用ゴム製品の価格上昇は、製造業の設備維持コストを増大させており、サプライチェーン全体のコスト体系を上方にシフトさせている。
医療・衛生業界
NBR高騰は医療用手袋・カテーテル等のコストを押し上げており、医療材料費の増大が病院経営に影響を与えている。
第7層: 店頭・家計・マクロへの波及
合成ゴム価格の家計への波及は主にタイヤ交換コストの上昇という形で現れる。
市販タイヤの平均5%値上げは、セダン用乗用車タイヤ4本セット(税込み4〜6万円帯)でおよそ2,000〜3,000円の負担増に相当する計算だ。
自動車保有コスト全体の上昇は、車検費用・整備費用の増大として家計を圧迫する方向に働く。
物流業界ではトラック・バスのタイヤコスト(1本あたり5〜30万円規模)の上昇が運賃に転嫁され、食品・日用品の物流コストを通じてCPI全般への間接的な影響が続く。
CPI(消費者物価指数)の「交通・通信」分野は、ガソリン価格に続いてタイヤ等の自動車部品コスト上昇によって上昇圧力が高まる局面だ。
今後の展望
ナフサクラッカー稼働率がホルムズ再開なしに回復することは考えにくく、合成ゴムの高価格は当面続く見通しだ。
来週の注目ポイント
6月第1週は米イラン交渉の帰趨がナフサ供給見通しに影響する最大の変数だ。
ナフサクラッカーの稼働率が回復するタイミングと、ブタジエンスポット価格の動向が次の8〜10月期のSBRフォーミュラ価格の方向を決める。
アジアのSBR現物市場(シンガポール・韓国発)の週次動向も、国内5〜7月期フォーミュラの調整材料として注視する必要がある。
1ヶ月先の見通し
6月中はホルムズ海峡の実質封鎖が続く前提で、ナフサクラッカーの稼働率回復は見込めない。
国内5〜7月期のSBR価格は確定済みであり、タイヤメーカーの調達担当者は8〜10月期の見通し(次のフォーミュラ改定)に向けた情報収集を今すぐ始める必要がある。
ナフサが6月以降に緩和する具体的なシナリオは「米イラン停戦→ホルムズ通航再開→ナフサ輸入量回復→クラッカー稼働率上昇→ブタジエン産出量回復」という5段階であり、最短でも2〜3ヶ月かかる。
3ヶ月先の構造的展望
信越化学工業の事例が示すように、エタン由来エチレンという「ナフサレス」の原料調達を持つ企業が今次危機の構造的勝者となっている。
この教訓は国内の石油化学・合成ゴム産業全体への構造転換の加速という形で現れる可能性がある。
旭化成のシンガポールS-SBR工場(ナフサクラッカーへの依存度が国内より低い)のような海外生産拠点の戦略的活用も、今後の業界再編のテーマとなりうる。
EV向け低燃費タイヤへの需要シフトにより、S-SBR(高機能品)の成長ポテンシャルはE-SBR(汎用品)を上回る見通しだが、両品種ともにブタジエン依存という構造は変わらず、原料多様化が中期的な競争優位の鍵となる。
リスクシナリオ
シナリオ1(下振れ)は、ホルムズ海峡の追加的な軍事行動だ。
ナフサの輸入量がさらに減少すれば、ブタジエン市場は完全に干上がり、国内での合成ゴム製造が設備能力以下に制約される事態が起こりうる。
シナリオ2(想定内)は、ホルムズ封鎖継続でナフサ逼迫が続くが、米国・東南アジア産ナフサの代替調達で現状の70%台稼働を維持する展開だ。
8〜10月期のSBRは5〜7月期と同水準ないし若干低い400〜480円台に落ち着く可能性がある。
シナリオ3(上振れ)は、ホルムズ再開と稼働率の急回復だ。
ブタジエン価格が急落し、8〜10月期のSBRフォーミュラが300円台まで修正される可能性がある。
業界別の対応指針
調達担当者
合成ゴムのフォーミュラ価格は3ヶ月ごとに改定される仕組みであり、現在の高値が固定される次の3ヶ月(5〜7月期)への対応は手遅れだ。
今すぐ取り組むべきは「8〜10月期の価格形成に向けた情報収集」であり、ブタジエン・ナフサ・スチレンモノマーの3原料の先行指標を週次でモニタリングするダッシュボードを構築することが実務上の緊急課題だ。
輸入品(韓国・中国産SBR)との価格比較を定期的に実施し、調達先の多様化余地を探ることも並行して進めるべきだ。
経営者
SBRの5〜7月期価格が49%急騰したことで、タイヤや工業用ゴム製品のコスト計画が前提から崩れた企業は少なくない。
第1四半期(4〜6月期)の実績をベースに2026年度の原価計算を至急修正し、秋以降の価格改定計画の立案を取締役会に上程するタイミングだ。
信越化学工業の株価好調が示すように、原料多様化(エタン由来等の非ナフサ経路)への長期投資は、こうした危機時の競争優位に直接つながる。
中期経営計画の見直しに合成ゴム調達の多様化と価格ヘッジの仕組みを組み込むことを優先事項として検討すべき局面だ。
投資家
国内の合成ゴムメーカーでは、旭化成(3407)がS-SBRの世界シェア首位として注目される。
ナフサ高騰は旭化成のコストを押し上げる一方、高機能S-SBRの希少性が製品価格の維持を可能にしている。
日本ゼオン(4205)はNBR等の特殊ゴムと、電池バインダー(LIB向け)という成長分野のポートフォリオを持っており、合成ゴム高騰の中でも高付加価値品への移行で収益を守っている。
信越化学工業(4063)はナフサ依存が低く、今次危機での構造的勝者として中期的な評価向上が続いている。
よくある質問
Q1: SBRの価格が49%急騰した直接の原因は何ですか?
ホルムズ海峡封鎖によるナフサ逼迫でナフサクラッカーの稼働率が70%台に低下し、ブタジエン(SBRの主原料)の副産物としての産出量が急減したためだ。
加えて化学大手が将来のコスト増を前倒し転嫁したことで、前期比153円という異例の上げ幅となった。
Q2: SBRとE-SBR/S-SBRの違いは何ですか?
E-SBR(乳化重合)は汎用品でタイヤトレッドや工業用ゴムに幅広く使われる。
S-SBR(溶液重合)は低燃費タイヤのトレッド向け高機能品で、転がり抵抗の低減に優れる。
旭化成はS-SBRで世界シェア首位を維持しており、EV向けの高性能タイヤ需要の拡大が中期的な追い風となっている。
Q3: 国内の合成ゴムメーカーはどこですか?
主要なのはENEOSマテリアル(旧JSR事業を買収)・旭化成(S-SBR世界首位)・日本ゼオン(特殊ゴム強み)の3社だ。
デンカはクロロプレンゴム(CR)で世界最大手シェアを持ち、大阪ソーダはエピクロルヒドリンゴムに特化した棲み分けが進んでいる。
Q4: 信越化学工業が「ナフサ危機の恩恵株」とされるのはなぜですか?
信越化学工業は米国テキサス州の自社設備でシェールガス由来のエタンからエチレンを製造しており、ナフサを使わない製造方法でエチレン系化学品を供給できる。
中東のナフサ逼迫が国内石化メーカーの生産コストを直撃する中で、同社はその制約から独立した収益構造を持ち、競合他社との差別化が際立っている。
Q5: 合成ゴムの高騰は消費者にどのように影響しますか?
最も身近な影響はタイヤ交換コストの上昇だ。
横浜ゴム等の6月値上げがディーラー・タイヤ専門店の店頭に反映されるのは1〜2ヶ月後で、消費者が実感するのは2026年夏以降となる。
物流コスト上昇を通じて食品・日用品の値上がりにも間接的に波及する。
編集部解説:日本への波及
SBRの5〜7月期価格が1kg当たり435.5〜499.5円という史上最高値を更新したことは、単なる原料高騰ではない。
ホルムズ海峡封鎖→ナフサ逼迫→クラッカー稼働率低下→ブタジエン副産物減少→SBR高騰という5段階の連鎖は、日本の石油化学産業がいかに中東産ナフサに依存した脆弱な構造にあるかを改めて可視化した出来事だ。
日本の主要業界への影響
旭化成は今次危機において、S-SBRの世界シェア首位企業として複雑な立場に立たされている。
同社はシンガポール工場でS-SBRを生産しており、国内のナフサクラッカー稼働率低下の影響を国内生産分よりは抑えられているが、ブタジエン原料のコスト高は海外工場でも共通の問題だ。
一方でS-SBRはE-SBRより高付加価値であるため、コスト上昇の転嫁がしやすいという構造的強みがある。
EV向け低燃費タイヤ(S-SBRの主要需要先)の市場成長は続いており、旭化成は中期的に需要増加と価格維持の両面で優位な立場にある。
日本ゼオンは合成ゴムの原料となるC4・C5留分の抽出技術を強みとしており、NBR・HNBRなどの特殊ゴム(高機能・高付加価値品)への特化で収益を守っている。
LIB(リチウムイオン電池)向けのSBRラテックス(電池バインダー)は、EV需要拡大という中期的な成長ドライバーを持っており、今次危機を超えた先の成長事業として位置づけられている。
ENEOSマテリアルは旧JSRのエラストマー事業を引き継いで国内最大の汎用SBR製造拠点を持つが、今次ナフサ危機の直撃を最も正面から受けている立場でもある。
化学大手が行った「将来コストの前倒し転嫁」という異例の決断は、ENEOSマテリアルを含む供給側が業績防衛のためにとった緊急措置であり、5〜7月期の取引価格交渉では需要家との厳しい局面があったことを示している。
商社マン視点の先読みポイント
住友商事のゴム・化学品部門の視点で合成ゴム市場を見ると、今の局面の最大のテーマは「8〜10月期の国内フォーミュラ価格の方向性」と「アジア現物市場との価格格差を利用したアービトラージ」の二点に集約される。
5〜7月期に史上最高値が確定した今、次の3ヶ月の価格形成を決めるのはナフサクラッカー稼働率の回復速度だ。
住友商事の担当者として取るべき第1の行動は、ブタジエンスポット価格(アジア・欧州)の週次モニタリング体制を強化し、8〜10月期フォーミュラの算定基礎となる「7〜9月の原料平均コスト」の予測精度を高めることだ。
フォーミュラ価格が下がる局面(ナフサ回復シナリオ)を先読みして、5〜7月期の高値在庫を長期契約先に早期放出するタイミングの判断が重要な実務課題となる。
第2の行動は、韓国・中国産SBRの輸入競争力の評価だ。
国内5〜7月期の大口価格が435〜500円に達している中で、韓国産や中国産のSBRが輸送コスト込みでどの水準で日本に入ってくるかを即座に試算し、バイヤーへの提案材料とする動きが商社の実力を発揮できる場面だ。
第3は、旭化成や日本ゼオンの高機能品(S-SBR・NBR)の在庫確保だ。
これらは汎用SBRより付加価値が高く、タイヤメーカーの優先調達品目となっているため、品薄になれば別途プレミアムが乗る可能性がある。
「今、商社マンならどう動くか」という問いへの答えは、「8〜10月期のブタジエン原料動向を今から予測し、フォーミュラ価格の方向が確定する前に顧客との長期数量確約交渉を仕掛けるタイミング」だ。
高値固定したい買い手と、下落見通しを気にする売り手の間で、合理的な価格バンドを設定した複数年契約が成立しやすい局面でもある。
まとめ
SBRの5〜7月期国内大口価格が435.5〜499.5円/kgという史上最高値を更新したことは、「ナフサ→クラッカー→ブタジエン」という副産物経路の脆弱性が今回の危機で初めて全国規模で可視化されたことを意味する。
タイヤメーカーのコスト構造が根本から変わっており、横浜ゴムの6月値上げは氷山の一角に過ぎない。
信越化学工業の株価好調とENEOSマテリアルの苦境という対比は、原料調達の多様化(エタン由来・バイオマス由来等の非ナフサ経路)という長期投資の差が、危機時に企業競争力として直結することを鮮明に示している。
8〜10月期フォーミュラ価格の方向性を決めるのはナフサクラッカーの稼働率回復速度であり、それはホルムズ海峡の状況に直結している。
ホルムズ再開というシグナルを掴んだタイミングで、合成ゴムの調達コストの方向転換が始まる。
商社・調達担当者はそのシグナルを誰よりも早く認識し、フォーミュラ価格の改定交渉を先取りすることで大きなコスト差が生まれる局面だ。


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