
グラファイト放熱シートとは、黒鉛の高い面方向熱伝導性を利用して、電子部品などに発生した局所的な熱を広い範囲へ拡散する薄型の熱対策材料です。
重要なのは「熱伝導率が高いシート」とだけ理解しないことです。
グラファイトシートは、発熱部品から熱を吸い取って消してしまう材料ではありません。
局所的な熱を面方向へ広げ、その先にある筐体、ヒートシンク、金属フレーム、冷却部品などへ熱を渡しやすくする「ヒートスプレッダー」として考えると理解しやすくなります。
Panasonic IndustryのPGSグラファイトシートでは、製品によって面方向に700〜1,950 W/(m・K)という熱伝導率が示されています。
一方、厚み方向は約10〜20 W/(m・K)とされており、熱の伝わり方には大きな異方性があります。
この記事では、グラファイトシートの基本だけでなく、TIMや銅・アルミとの違い、用途、メーカー、加工工程、営業・調達で確認したいポイントまで整理します。
グラファイト放熱シートとは何か
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グラファイトは炭素からなる材料です。
黒鉛結晶は層状構造を持つため、シート面に沿った方向へ熱を伝えやすい性質があります。
その性質を利用してシート状にしたものが、電子機器の熱対策に使用されるグラファイトシートです。
経済産業省は2018年、スマートフォンやタブレットなどに使われる放熱用グラファイトシートについて、面方向の熱拡散率を評価するJIS R 7240を制定しました。
当時の資料でも、スマートフォン・タブレットに加え、LEDやEV・HEV関連などへの用途拡大が説明されています。
グラファイトシートの役割を簡単に表すと、
発熱部品
↓
グラファイトシート
↓
熱を広い面積へ拡散
↓
筐体・ヒートシンクなど
↓
外気・冷却系
という流れになります。
ここを理解すると、なぜ薄型電子機器にグラファイトシートが使われるのかが分かります。
限られたスペースで、大型ヒートシンクやファンを配置できない場合でも、局所的に集中した熱を別の場所へ移動させられるからです。
なぜグラファイトシートは熱を広げられるのか
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面方向と厚み方向では熱伝導率が大きく違う
グラファイトシートで最も重要なのが「異方性」です。
材料を見るときは、
X-Y方向=シート面方向
Z方向=シート厚み方向
を分ける必要があります。
Panasonic IndustryのPGSでは、面方向の熱伝導率について700〜1,950 W/(m・K)という値が公開されています。
一方、厚み方向については約10〜20 W/(m・K)と説明されています。
つまり、
「発熱部品から真上のヒートシンクへ熱を通す」
ことと、
「発熱部品付近の熱を横へ広げる」
ことでは、同じグラファイトシートでも役割がまったく違います。
ここが一般的なTIMとの大きな違いです。
「熱を広げる」と「熱を捨てる」は別
グラファイトシートを貼れば、それだけで機器が冷えるとは限りません。
例えばCPU付近の熱をグラファイトシートで広げても、その熱を最終的に筐体やヒートシンクから外部へ放出できなければ、機器全体が温まるだけになる可能性があります。
熱設計では、
発熱量
↓
熱源からシートまでの界面
↓
シート内の熱拡散
↓
シートから筐体・ヒートシンクへの熱移動
↓
外気・冷却液への放熱
という熱経路全体を見る必要があります。
このためグラファイトシートは、単体の材料性能ではなく「どこから熱を受け、どこへ運ぶか」で評価した方が実務的です。
天然黒鉛系と人工黒鉛系の違い
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グラファイトシートには、天然黒鉛を原料とするタイプと、高分子フィルムなどから人工的に作るタイプがあります。
Panasonic IndustryはPGSについて、高分子フィルムを高温・無酸素環境で熱分解して製造する人工黒鉛シートと説明しています。
同社は天然黒鉛シートとの違いについて、高い結晶性により高い熱伝導性を持つと説明しています。
一方、東洋炭素のPERMA-FOILは、天然黒鉛を酸処理し、高温で膨張させた後、ロール圧延することで可撓性のある黒鉛シートへ加工されています。
| 分類 | 代表的な製法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 人工黒鉛系 | 高分子フィルムなどを高温処理して黒鉛化 | 高い結晶性・高い面方向熱伝導率を実現しやすい |
| 天然黒鉛系 | 天然黒鉛を膨張・成形・圧延 | 柔軟性、圧縮復元性を持たせやすい |
ただし「人工黒鉛なら必ず優れている」「天然黒鉛なら低性能」という単純な比較はできません。
用途、厚み、密度、積層構造、粘着材、保護フィルムなどによって最終製品の性能は変わります。
銅・アルミ・TIMとはどう使い分けるか
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グラファイトシートを選定するときに、最も多い誤解の一つが「熱伝導率だけを比較する」ことです。
| 材料 | 得意な役割 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| グラファイトシート | 薄い空間で面方向へ熱を拡散 | 導電性、異方性、破損・粉落ち |
| 銅 | 高い熱伝導、構造部材、熱輸送 | 重量 |
| アルミ | 熱伝導と軽量性、筐体・ヒートシンク | グラファイトほど高い面方向熱伝導率ではない |
| TIM | 発熱体と放熱部品間の微細な隙間を埋める | 材料ごとに厚み・圧縮・熱抵抗が異なる |
TIMについて詳しく確認する場合は、製造業サプライチェーン研究所の「TIMとは?種類・用途・メーカー選定のポイント」で、界面熱抵抗、BLT、圧縮条件まで整理しています。
TIMとは?種類・用途・メーカー選定のポイント
熱伝導率だけ比較してはいけない
例えばPanasonicのPGSには、25μmで1,600 W/(m・K)の製品があります。
ここで重要なのは、材料が薄くなるほど熱を流す断面積も小さくなることです。
同じ幅・同じ熱輸送距離で単純化すると、面方向の熱輸送能力を見る一つの目安として、
熱伝導率 × 厚み
を考えられます。
例えば、
PGS
1,600 W/(m・K) × 0.025mm
と、
純銅を約400 W/(m・K)として
400 W/(m・K) × 0.1mm
を概算すると、どちらも約0.04になります。
つまり「1,600 W/(m・K)だから銅の4倍」という熱伝導率だけの比較では、実際のシートとしての熱輸送能力を十分に表せません。
もちろん実際には、
接触熱抵抗
接着剤
シート幅
熱源位置
温度
積層構造
なども影響します。
材料選定ではW/(m・K)だけを見るのではなく、厚みと実装条件まで含めて判断する必要があります。
グラファイト放熱シートはどこで使われるか
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グラファイトシートが向いているのは、薄型・軽量化が必要で、局所的なヒートスポットを広い面積へ逃がしたい用途です。
スマートフォン・タブレット
経済産業省がJIS制定時に代表用途として挙げた分野です。
薄型筐体の中では大型ファンを配置しにくいため、SoCなどから発生した熱を筐体内部へ広げる用途と相性があります。
カメラ・ディスプレイ
ニチベイパーツはグラファイトシートの使用例として、スマートフォン、ミラーレス一眼カメラ、医療用カメラ、車載カメラ、テレビ、パソコン、OLEDなどを挙げています。
通信機器・サーバー
Panasonic Industryはグラファイト系熱対策材料について、基地局やサーバーなどを用途として公開しています。
通信機器では高速処理や電源回路によって局所発熱が発生するため、基板内・筐体内で熱を分散する設計が必要になります。
AIサーバー全体の冷却経路については、TIM、ヒートシンク、コールドプレート、CDUまで別の記事で整理しています。
AIサーバーの放熱・冷却部品一覧
車載電子機器
Panasonic Industryは、インバーター、コンバーター、車載カメラ、モーター制御ユニット、車載LED、HUDレーザー光源などをグラファイト系熱対策材料の用途として挙げています。
ただし車載では熱性能だけでなく、
振動
温度サイクル
絶縁
難燃
耐久性
接着信頼性
などを確認する必要があります。
EVの熱経路については、インバータ、OBC、DC-DC、eAxleまで別記事で整理しています。
EVの放熱材料・冷却部品とは?
半導体製造・光通信・産業機器
PanasonicのPGS資料では、半導体製造装置や光通信機器も推奨用途として示されています。
産業機器では、小型化だけでなく連続運転や高信頼性が求められるため、材料単体よりも実装後の温度分布と長期信頼性で評価する必要があります。
宇宙機器
カネカは、多層グラファイトシートを用いた人工衛星用サーマルストラップを公開しています。
銅・アルミと比較した軽量性と熱輸送能力、柔軟性を特徴として挙げています。
これは、グラファイトが単なるスマートフォン向け薄型材料ではなく、重量制約が厳しい熱輸送用途にも応用できることを示す例です。
グラファイトシートのサプライチェーン
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グラファイトシート市場を見る場合、完成したシートメーカーだけを見ても十分ではありません。
人工黒鉛系で単純化すると、
高分子フィルム
↓
高温熱処理・黒鉛化
↓
グラファイトシート
↓
PET・絶縁フィルム・粘着テープとの積層
↓
スリット・打ち抜き加工
↓
モジュール組立
↓
電子機器
という流れになります。
天然黒鉛系では、
天然黒鉛
↓
処理・膨張
↓
圧延
↓
黒鉛シート
↓
積層・粘着加工
↓
打ち抜き加工
↓
製品組立
というサプライチェーンを考えられます。
東洋炭素は天然黒鉛を酸処理し、膨張、予備成形、ロール圧延、巻き取り、検査という製造工程を公開しています。
材料だけでなく加工工程にも需要がある
実際の電子機器では、A4状やロール状のグラファイトシートをそのまま使うとは限りません。
必要になる可能性があるのは、
PETフィルム
絶縁フィルム
粘着テープ
両面テープ
打ち抜き加工
ハーフカット
スリット
ラミネート
位置決め
端面処理
検査
サーモグラフィー評価
などです。
PanasonicもPGSについてPETテープや粘着材を組み合わせた加工品を展開しています。
ここから重要なことが分かります。
グラファイトシート市場が拡大した場合、商機は黒鉛材料メーカーだけに発生するわけではありません。
フィルム、粘着材、精密打ち抜き、ラミネート、熱評価などにも需要が波及する可能性があります。
主な関連メーカーと製品
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以下は公開情報で確認できた例です。
取引関係や特定製品への採用を示すものではありません。
| 企業 | 公開製品・技術 | 今回のテーマとの関係 |
|---|---|---|
| Panasonic Industry | PGS、GraphiteTIM | 人工黒鉛、熱拡散、パワーモジュール |
| 東洋炭素 | PERMA-FOIL | 天然黒鉛系可撓性シート |
| 北川工業 | GHS-25 | グラファイトを利用したヒートスポット対策 |
| カネカ | 多層グラファイトサーマルストラップ | 宇宙向け熱輸送 |
| ニチベイパーツ | グラファイトシート加工・積層 | 加工・積層・形状対応 |
Panasonicの現行PGS製品では70μm品で1,000 W/(m・K)、100μm品で700 W/(m・K)などの仕様が公開されています。
北川工業のGHS-25では、グラファイトシート単体の面方向熱伝導率として1,400 W/(m・K)以上が公開されています。
ただし異なるメーカーの数字を単純にランキングするべきではありません。
測定法、厚み、構造、温度、積層材などの条件をそろえて比較する必要があります。
採用前に確認したい10項目
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鉛フリーはんだ市場2027-2030
グラファイトシートメーカーへ問い合わせる前に、最低でも以下を整理すると選定しやすくなります。
- 何℃から何℃まで下げたいのか
- 発熱源はどこか
- 熱を最終的にどこへ移動させるのか
- 必要な面方向熱伝導率はいくらか
- シート厚みはいくらまで許容できるか
- 電気絶縁が必要か
- PET・粘着材・保護フィルムが必要か
- 曲げ・振動・温度サイクルがあるか
- 打ち抜き後の端面・粉落ち対策が必要か
- 実機で温度分布を確認したか
特に絶縁性には注意が必要です。
PanasonicはPGSが炭素材料のため導電性を持つと明記しており、必要に応じてPETテープなどで被覆する方法を示しています。
また、切断屑が回路へ落下した場合にショートする可能性があるため、加工・実装工程でも対策が必要です。
メーカーの安全資料でも、傷、折り目、破損などが熱性能へ影響する可能性や、導電性粉末への注意が示されています。
営業・調達ではどこに商機があるか
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AIデータセンター液冷市場・サプライチェーン2027-2030
グラファイト放熱シートを営業テーマとして見る場合、「グラファイトシートを販売する会社」だけに限定しない方が市場を広く捉えられます。
需要を分解すると、
電子機器の高性能化
↓
局所発熱の増加
↓
熱拡散が必要
↓
グラファイトシート
↓
粘着・絶縁・加工
↓
筐体・ヒートシンク
↓
熱評価
という流れになります。
そのため商材別には、
材料メーカー
フィルムメーカー
粘着テープメーカー
精密打ち抜き会社
ラミネート加工会社
ヒートシンクメーカー
筐体メーカー
サーマル評価会社
EMS・組立会社
などにも接点があります。
営業先を探すときは、「グラファイトシートを使いませんか」と提案するより、
どこにヒートスポットがあるか
何W発熱しているか
どこへ熱を移したいか
厚み制限はいくらか
絶縁が必要か
現在どんな熱対策をしているか
を確認した方が具体的な案件につながりやすくなります。
放熱材料全体の関係を確認したい場合は、TIM、グラファイト、セラミックス、液冷まで整理した記事も参考になります。
放熱材料市場とは?TIM・グラファイト・セラミックス・液冷
電子機器の放熱市場をさらに調べる場合
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この記事ではグラファイトシート単体について解説しました。
実際に新規事業や営業先を検討する場合は、
グラファイト
TIM
ヒートシンク
ベーパーチャンバー
コールドプレート
液冷
AIサーバー
EV・パワー半導体
まで一つの熱マネジメント市場として見る必要があります。
製造業サプライチェーン研究所では、電子機器の放熱材料・冷却部品市場2027-2030を含む法人向け市場調査レポートを公開しています。
PDF・Excelで、企業・市場・営業機会まで確認したい場合はこちらです。
年次白書・市場調査レポート一覧|製造業サプライチェーン研究所
FAQ
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グラファイトシートと放熱シートは同じものですか?
グラファイトシートは放熱・熱対策シートの一種です。
ただしシリコーン系放熱シートやギャップフィラーなどとは熱の伝わり方や役割が異なります。
グラファイトシートはTIMとして使えますか?
製品によってはTIM用途に設計されたグラファイト材料があります。
ただし一般的な薄型グラファイトシートは面方向への熱拡散を得意とするため、通常のTIMと単純に置き換えるべきではありません。
Panasonicも通常PGSとは別に、圧縮性を持たせたGraphiteTIMを展開しています。
グラファイトシートは電気を通しますか?
通します。
炭素材料であるため導電性があり、絶縁が必要な場所ではPETなどによる被覆や構造設計が必要です。
熱伝導率が高ければ高いほど冷えますか?
必ずしもそうではありません。
厚み、面積、熱源位置、界面熱抵抗、最終的な放熱経路まで含めて性能が決まります。
グラファイトシートは切断できますか?
製品によって打ち抜きや切断加工が可能です。
ただし切断屑が回路へ落下するとショートにつながる可能性があるため、加工・端面処理・実装条件を確認する必要があります。
天然黒鉛と人工黒鉛はどちらを選ぶべきですか?
用途によります。
最高クラスの面方向熱伝導率や薄型化を優先するのか、柔軟性、圧縮性、厚み、価格、加工性を優先するのかで候補が変わります。
グラファイトシートだけで電子機器を冷却できますか?
グラファイトシートは基本的に熱を移動・拡散させる材料です。
最終的に筐体、ヒートシンク、空気、冷却液などへ熱を逃がす経路が必要です。
まとめ
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グラファイト放熱シートを見るときに最も重要なのは、「高熱伝導材料」という言葉だけで判断しないことです。
確認すべきポイントは、
面方向へ熱を広げる材料であること
厚み方向とは熱伝導性能が大きく異なること
熱を広げた後の放熱経路が必要なこと
TIMとは役割が異なること
材料だけでなく粘着、絶縁、打ち抜き、評価まで市場が広がること
です。
自社製品への採用を検討する場合は、最初に「何W/mKのシートが欲しいか」を決めるのではなく、
発熱源はどこか
↓
熱をどの方向へ逃がすか
↓
どこへ熱を捨てるか
から整理すると、適切な材料を選びやすくなります。
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グラファイトシートだけでなく、TIM、ヒートシンク、ベーパーチャンバー、コールドプレート、液冷、AIサーバー、EV・パワー半導体まで含めて調査したい場合は、製造業サプライチェーン研究所の法人向け市場調査レポートを利用できます。
企業一覧、市場動向、営業先候補などをPDF・Excelで確認できます。
製造業向けの見積・文書・各種管理用Excelツールはこちらにまとめています。

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