
原材料費、電力費、物流費、人件費などが上昇し、
「そろそろ取引先へ価格改定をお願いしなければならない」
となったとき、最初に悩むのが文書の作り方です。
価格改定の文書で重要なのは、丁寧な文章を書くことだけではありません。
取引先が知りたいのは、
何が変わるのか
なぜ変わるのか
いくら変わるのか
いつから変わるのか
です。
そして製造業では、それを裏付ける数字も必要になります。
この記事では「価格改定通知書」「値上げ依頼書」を作る際に必要な項目と、価格交渉資料とのつなぎ方を整理します。
「値上げのお知らせ」だけで終わらせない
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
価格改定の文書には、
「昨今の原材料価格、エネルギー価格、物流費の高騰により、企業努力だけでは吸収することが困難となりました」
という文章がよく使われます。
この文章自体がおかしいわけではありません。
しかし、これだけでは取引先が判断できません。
「具体的に何がどの程度上昇したのか」
「対象製品はどれなのか」
「価格はいくらになるのか」
が書かれていないからです。
製造業の価格改定では、挨拶文よりも「条件」が重要です。
価格改定文書に入れたい7項目
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
価格改定を申し入れる文書では、最低限次の7項目を整理します。
1.価格改定をお願いする理由
最初に、なぜ価格改定が必要なのかを簡潔に説明します。
例えば、
原材料費上昇
エネルギー価格上昇
物流費上昇
労務費上昇
などです。
ここで長い市場解説を書く必要はありません。
詳細なデータは別紙へ分けます。
本文では、
「主要原材料の仕入価格および物流費の上昇が継続しており、従来価格での供給維持が困難となった」
といった形で理由を整理します。
2.対象となる製品
「弊社製品を値上げします」
では範囲が広すぎます。
対象となる、
製品名
品番
製品群
契約
を明確にします。
例えば、
対象:ABCシリーズ全品
対象品番:A-100、A-200、A-300
といった形です。
大量の品番がある場合は、別紙の改定価格表へ分けます。
3.現在の価格
取引先側で比較できるよう、可能であれば現行価格を明記します。
現行単価 1,000円
と書けば、その後の新価格との比較が容易です。
4.改定後の価格
最も重要な項目です。
改定後単価 1,050円
のように明確にします。
「約5%値上げ」
だけでは、端数処理や品番ごとの価格が分かりません。
可能であれば新単価まで提示します。
5.改定額・改定率
現行価格と新価格だけでも計算できますが、
改定額 +50円
改定率 +5%
まで記載すると分かりやすくなります。
取引先担当者が社内資料へ転記する手間も減ります。
6.適用希望日
価格交渉では「いつから」が重要です。
2027年1月1日注文分
2027年1月1日出荷分
2027年1月1日納入分
では意味が違います。
自社の取引条件に合わせて、基準を明確にします。
7.協議のお願い
価格改定文書を送っただけで、自動的にすべての取引条件が変更されるとは限りません。
既存契約や個別契約の内容も確認する必要があります。
そのため実務では、
「価格改定についてご協議をお願い申し上げます」
とし、必要に応じて商談や協議の場を設定する方法があります。
特に継続取引では、文書を「一方的な通知」として終わらせず、協議の入口として使うことが重要です。
「通知書」と「依頼書」はどう使い分けるか
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
価格改定文書には、
価格改定通知書
価格改定依頼書
価格改定のお願い
価格改定に関するご相談
など、さまざまな名称があります。
重要なのは名称そのものではありません。
既に契約上決められた価格改定ルールに基づいて変更するのか。
相手との協議・合意が必要なのか。
によって扱いが異なります。
継続的な製造委託や部品取引などでは、既存契約や個別契約を確認したうえで進める必要があります。
判断が難しい契約については、法務担当者や専門家へ確認してください。
文書は1枚、根拠は別紙にする
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
価格改定依頼書にすべての情報を詰め込むと、読みにくくなります。
おすすめは、
本紙
+
根拠資料
+
価格表
に分ける方法です。
本紙では、
対象
価格
開始時期
理由
を簡潔に伝えます。
根拠資料では、
材料価格
電力費
物流費
労務費
などの変化を説明します。
価格表には、
品番
現行単価
新単価
改定額
改定率
を並べます。
この構成にすると取引先側でも確認しやすくなります。
価格改定依頼書の基本例
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
最低限の文書なら、次のような構成になります。
価格改定のお願い
平素より格別のご高配を賜り、誠にありがとうございます。
さて、主要原材料価格、エネルギーコストおよび物流費等の上昇が続いております。
弊社におきましても生産性向上、調達方法の見直し、経費削減等に取り組んでまいりましたが、現在の価格を維持することが困難な状況となっております。
つきましては、誠に恐縮ではございますが、下記のとおり価格改定についてご協議をお願い申し上げます。
対象製品:○○シリーズ
現行価格:1,000円
改定希望価格:1,050円
改定額:+50円
改定率:+5%
適用希望日:2027年1月出荷分より
価格改定の詳細な根拠につきましては、別紙資料をご参照ください。
今後も品質および安定供給の維持に努めてまいりますので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
ここで重要なのは文章の美しさではありません。
「誰が読んでも条件が同じように理解できること」です。
「企業努力では吸収できない」を数字に変える
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
値上げ依頼文で頻繁に使われるのが、
「企業努力だけでは吸収できない状況となりました」
という表現です。
しかし、そのままでは具体性がありません。
別紙で、
旧材料費 100円
新材料費 128円
増加額 28円
旧物流費 20円
新物流費 26円
増加額 6円
旧電力費 15円
新電力費 19円
増加額 4円
というように示します。
この例なら、
製品1個当たり+38円
です。
そのうえで、
「38円のコスト増に対して40円の価格改定をお願いする」
という説明に変えます。
これなら、
「企業努力では難しい」
という抽象的な文章が、
「製品1個当たり38円コストが増加した」
という数字になります。
労務費を理由とする場合は公表資料も使える
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
労務費は原材料と違い、「仕入伝票」をそのまま見せることができません。
そこで重要になるのが公表データです。
公正取引委員会の労務費転嫁指針では、受注者が価格交渉を行う際の根拠資料として、公表資料を利用する考え方が示されています。
発注側が過度に詳細な内部情報まで求めることへの注意も示されています。
そのため、
最低賃金
春季労使交渉
公的賃金統計
などを外部根拠として利用し、自社への影響と組み合わせる方法があります。
2026年から「価格について協議する」重要性が高まった
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
2026年1月1日から取適法が施行されました。
対象となる取引では、中小受託事業者が価格協議を求めたにもかかわらず、委託事業者が協議に応じない、必要な説明を行わないなど、一方的に価格を決定する行為が禁止されています。
一方で、これは受注側が提示した価格をそのまま受け入れることを義務付ける制度ではありません。
だからこそ、
「値上げします」
という一方的な文章だけではなく、
「この条件で価格改定について協議したい」
という形で資料を整える意味があります。
価格改定の申入れは記録に残す
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
口頭だけで価格改定をお願いすると、
「いつ言ったのか」
「何%だったのか」
「いつからだったのか」
が後から曖昧になる場合があります。
公正取引委員会の労務費転嫁指針でも、価格交渉の記録を作成し、発注者・受注者双方で保管することが示されています。
そのため、
メール
書面
議事録
など、後から確認できる形で残しておくことが重要です。
価格改定資料を提出する前に確認すること
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
取引先へ送信する前に、
対象品番は正しいか。
現行価格は正しいか。
新価格は計算と一致しているか。
適用日は注文基準か、出荷基準か、納入基準か。
契約条件と矛盾していないか。
根拠資料の数字と本文の数字が一致しているか。
担当者名、会社名、日付は正しいか。
を確認します。
特にExcelで価格表を作っている場合、計算式の参照ミスには注意が必要です。
価格改定文書だけでは交渉は終わらない
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。

価格改定依頼書を提出すると、その後、
「この数字の根拠を説明してください」
「他社はどうですか」
「もう少し時期を遅らせられませんか」
「5%ではなく3%ならどうですか」
といった質問が出てきます。
そこで必要になるのが、
価格改定通知文
+
根拠資料
+
面談台本
+
切り返し
+
社内承認資料
です。
文書を作ること自体が目的ではありません。
実際に価格改定について合意できるところまで準備しておく必要があります。
価格改定資料をまとめて作りたい場合
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
製造業サプライチェーン研究所では、
「製造業の価格転嫁資料を30分で作る方法|原材料・電力・物流費の計算+説明文テンプレート」
を公開しています。
収録内容には、
原材料費の計算
電力費の計算
物流費の計算
値上げ率の考え方
価格改定通知文
面談時の説明台本
断られた場合の切り返し
社内稟議
月次更新
申し入れ前チェックリスト
計算用Excel
などが含まれています。
「価格改定の文章だけ欲しい」という場合は、この記事の基本例から作ることもできます。
一方、
「根拠計算から提出資料、交渉まで一式で準備したい」
という場合は、Excelやテンプレートを使って標準化する方法もあります。
FAQ
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
価格改定は何か月前に通知すればよいですか?
一律の期間はありません。
契約条件、業界慣行、生産リードタイム、相手側の予算編成などを確認して決める必要があります。
「値上げ通知」と「値上げのお願い」はどちらがよいですか?
既存契約の内容によります。
相手との協議や合意が必要な取引では、「価格改定についてのお願い」「価格改定に関する協議のお願い」などの形が分かりやすい場合があります。
値上げ理由は詳しく書いた方がよいですか?
本紙は簡潔にし、詳細は別紙に分ける方法が使いやすいでしょう。
重要なのは長さではなく、価格改定額と根拠がつながっていることです。
全商品を一律何%と書いてもよいですか?
原価構造が近い商品群で合理的に説明できる場合は管理しやすい方法です。
ただし原価構成が大きく違う製品を一律にすると、根拠を説明しにくくなります。
メールだけでも価格改定を申し入れられますか?
取引条件や契約内容によりますが、価格協議の申入れを記録に残すという意味でメールは有用です。
正式な改定手続きは自社と取引先の契約条件を確認してください。
相手に値上げを断られた場合はどうしますか?
理由を確認し、価格だけでなく開始時期、数量、ロット、契約期間なども含めて再協議します。
最初から代替案を準備しておくと交渉しやすくなります。
まとめ
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
価格改定依頼書で重要なのは、丁寧な挨拶文ではありません。
相手が、
何が対象なのか
いくらになるのか
いつからなのか
なぜその金額なのか
を理解できることです。
そして価格改定文書は単独で使うのではなく、
価格改定依頼書
↓
根拠資料
↓
価格表
↓
面談
↓
交渉記録
まで一連の業務として設計する方が実務では使いやすくなります。
まず自社で確認したいのは、
「現在の価格」
「新しい価格」
「その差額を説明できる数字」
の3つです。
ここが揃えば、価格改定文書はかなり作りやすくなります。

コメント