
取引先からBCP調査票が届き、「BCPを策定していますか」「訓練していますか」「代替仕入先を確保していますか」と聞かれたとき、重要なのは回答欄へ先に「はい」と入力することではありません。
先に確認したいのは、その回答を説明できる資料が社内に存在するかです。
BCP調査票には統一された一つの回答基準があるわけではなく、顧客や業界によって質問や評価方法は異なります。
そのため、「何があれば必ず『はい』になる」と一律には言えません。
ただし公的ガイドラインやJEITAのサプライチェーン事業継続調査票を見ると、
計画
体制
連絡先
調達
代替策
教育・訓練
点検・改善
まで確認する考え方は共通しています。JEITA
この記事では、BCP調査票へ回答する前に確認したい証拠資料を、製造業の実務目線で整理します。
BCP調査票の「はい」は何を意味するのか
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
BCP調査票で最も注意したいのが、
「予定」と「実施済み」を混ぜないこと
です。
例えばBCP計画書に、
「毎年9月にBCP訓練を実施する」
と書いてあったとします。
これは「訓練計画がある」証拠にはなります。
しかし、
「今年、訓練を実施した」
ことの証拠にはなりません。
同じことは仕入先にも当てはまります。
「A社からも購入できると思う」
「A社へ見積依頼をした」
「A社品を評価した」
「顧客承認まで完了した」
では、代替調達としての確実性が大きく違います。
したがってBCP調査票では、
計画があるのか。
実施したのか。
確認したのか。
承認まで終わっているのか。
を分けて考える必要があります。
JEITAの調査票でも、緊急時体制について「文書がある」状態と、「教育・訓練まで行い関係者へ周知されている」状態を分けて評価しています。JEITA
最初に作りたい「回答と証拠」の対応表
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
BCP調査票が届いたら、いきなり質問票へ入力するより、次のような対応表を先に作った方が整理しやすくなります。
| 調査項目 | 「はい」の根拠として確認したいもの | さらに確認したい実施証拠 |
|---|---|---|
| BCP策定 | BCP基本計画 | 承認日、改訂履歴 |
| 緊急体制 | 組織図、責任者一覧 | 周知記録 |
| 緊急連絡 | 連絡網 | 更新履歴、連絡訓練 |
| 重要業務 | 重要業務一覧 | RTO等の設定根拠 |
| 代替拠点 | 代替拠点一覧 | 利用可能性の確認 |
| バックアップ | バックアップ方針 | 復元テスト記録 |
| 仕入先管理 | 主要仕入先一覧 | BCP確認記録 |
| 代替調達 | 代替仕入先一覧 | 見積、評価、承認記録 |
| 物流 | 代替物流会社・輸送方法 | 確認記録 |
| 教育 | 教育計画 | 教育実施記録 |
| 訓練 | 訓練計画 | 参加者、結果、課題 |
| 見直し | 見直し手順 | 改訂履歴、改善記録 |
この表が、今回の記事で最も使ってほしい部分です。
質問票そのものを管理するのではなく、
「回答」と「根拠」を紐づけて管理します。
1.「BCPを策定している」の証拠
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
最初に確認するのはBCP基本計画です。
少なくとも、
対象事業
基本方針
責任者
発動条件
緊急時体制
重要業務
復旧方法
連絡方法
などが確認できる文書を用意します。
重要なのはファイルが存在するだけではありません。
誰が承認したのか。
いつ策定したのか。
現在の組織や設備に合っているのか。
まで確認します。
JEITAの調査票でも、BCPについて、策定済みかだけでなく経営者による承認の有無まで分けて評価しています。JEITA
証拠として管理したいもの
BCP基本計画
制定日
最新版番号
経営者承認記録
改訂履歴
が基本になります。
2.「緊急連絡体制がある」の証拠
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
BCPで意外に重要なのが連絡先です。
中小企業庁のBCP自己診断でも、
従業員連絡先
主要取引先連絡先
行政・公共サービス連絡先
などを最新状態に保っているか確認する項目があります。中小企業庁
「連絡網があります」と回答するのであれば、
Excelや紙の連絡先一覧が存在するだけでなく、
退職者が残っていないか。
担当者変更が反映されているか。
携帯電話番号が変わっていないか。
も確認したいところです。
証拠として管理したいもの
従業員緊急連絡網
緊急対策本部メンバー一覧
顧客連絡先
主要仕入先連絡先
物流会社連絡先
更新日
です。
さらに強い証拠になるのが、
実際に連絡網を使った安否確認訓練や連絡訓練の記録
です。
3.「重要業務と復旧目標を決めている」の証拠
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
BCPは「会社を全部同時に復旧する計画」ではありません。
重要な製品や業務を決め、
どこから復旧するか
を整理する考え方です。
内閣府の事業継続ガイドラインでも、重要業務の決定と目標復旧時間・目標復旧レベルの検討がBCMの主要項目に含まれています。防災情報のページ
製造業であれば、
主要顧客向け製品
止めると影響が大きい製造ライン
受注処理
出荷
購買
品質保証
基幹システム
などを整理します。
証拠として管理したいもの
重要業務一覧
重要製品一覧
RTO、目標復旧時間
復旧優先順位
必要人員
必要設備
必要材料
必要ITシステム
です。
単に「24時間以内に復旧」と書くのではなく、
なぜ24時間なのか
も社内で説明できる状態にしておくと実務で使いやすくなります。
4.「代替拠点・代替設備がある」の証拠
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
「代替拠点があります」という回答も注意が必要です。
例えば、
別工場が存在する
ことと、
同じ製品をそこで生産できる
ことは別です。
設備仕様。
治工具。
作業者。
検査設備。
材料。
顧客承認。
まで確認すると、実際には代替できないことがあります。
証拠として確認したいもの
代替拠点一覧
代替設備一覧
生産可能品目
生産能力
治工具移管方法
データ移管方法
品質保証方法
顧客承認の必要性
です。
「工場が2つあるからBCP対応済み」ではなく、
重要製品をもう一方へ移せるか
まで確認します。
5.「仕入先リスクを管理している」の証拠
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
製造業のBCPでは、自社だけを見ていても十分ではありません。
原材料や部品の供給元が止まれば、自社工場が無傷でも生産できないからです。
内閣府のBCPガイドラインでも、サプライチェーンの視点から取引先を点検・評価することがチェック項目に含まれています。防災情報のページ
自動車部品業界でも、仕入先の緊急連絡先、所在地、主要品目、リスク、ボトルネックなどを把握する考え方が示されています。一般社団法人 日本自動車部品工業会
証拠として管理したいもの
主要仕入先一覧
供給品目
所在地
製造拠点
緊急連絡先
供給停止時の影響
代替性
BCP確認日
です。
特に重要なのが、
「商社が2社あるから複数購買」
とは限らないことです。
商社Aと商社Bの調達元をたどると、同じメーカーの同じ工場から供給されている場合があります。
BCPでは、
購入窓口
だけでなく、
実際の供給源
を見る必要があります。
6.「代替仕入先がある」の証拠
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
ここは調査票回答で誤解が起きやすい部分です。
代替仕入先には段階があります。
| 状態 | 実際の意味 |
|---|---|
| 候補企業を知っている | 候補 |
| 問い合わせ済み | 供給可能性を確認中 |
| 見積取得済み | 価格・納期を確認 |
| サンプル評価済み | 技術評価まで実施 |
| 社内承認済み | 社内切替可能 |
| 顧客承認済み | 顧客条件を含め切替可能 |
したがって、
「A社でも買えると思います」
という状態で「代替仕入先確保済み」と断定するのは避けた方が安全です。
証拠として確認したいもの
代替仕入先候補一覧
見積書
仕様書
サンプル評価結果
品質評価結果
変更管理記録
顧客承認記録
です。
調査票に備考欄があるなら、
「候補選定済み」
「評価中」
「承認済み」
など、現在地を記載した方が実態を正確に伝えられます。
7.「教育・訓練を実施している」の証拠
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
BCPでは「計画を作った」ことと、「実際に動ける」ことは別です。
内閣府の2023年事業継続ガイドラインでは、BCPを紙や社内サイトで周知するだけでは十分ではなく、継続的な教育・訓練が不可欠としています。防災情報のページ
さらにチェックリストでは、
教育・訓練の目的
対象者
実施方法
実施時期
を含む計画を作成し、定期的に実施することが確認項目となっています。防災情報のページ
したがって、
「年1回訓練する予定」
と
「2026年9月10日に実施した」
は別に管理します。
訓練証拠として残したいもの
訓練日
訓練内容
想定災害
参加者
確認項目
結果
発見した問題
改善担当者
改善期限
写真や参加記録
です。
特に重要なのは、
「訓練をやった」
だけで終わらせないことです。
連絡に時間がかかった。
バックアップデータが開けなかった。
責任者不在時の代理者が決まっていなかった。
といった問題を残し、
その後どう改善したか
までつながるとBCPの実効性を説明しやすくなります。
8.「定期的に見直している」の証拠
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。

BCPは一度完成して終わる文書ではありません。
担当者が変わります。
仕入先が変わります。
生産設備が変わります。
顧客が変わります。
物流会社が変わります。
システムも変わります。
内閣府のチェックリストでも、人事異動、取引先変更、事業所や製造ライン、業務プロセスなどの変化に合わせてBCMを点検・評価しているか確認しています。防災情報のページ
証拠として管理したいもの
定期見直し記録
改訂履歴
変更理由
経営者レビュー記録
改善一覧
完了日
です。
文書の表紙に、
第1版
第2版
第3版
と書くだけでなく、
何を変更したのか
が追えるようにします。
証拠資料は3段階で管理すると判断しやすい
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
BCP調査票への回答を整理する場合、
「ある・ない」
だけではなく、3段階に分けると分かりやすくなります。
第1段階 計画
何をするか決めている。
例:
年1回訓練する。
代替仕入先を選定する。
データをバックアップする。
第2段階 実施
実際に行っている。
例:
2026年9月に訓練した。
A社へ見積を依頼した。
毎晩バックアップを取得している。
第3段階 検証
本当に機能するか確認している。
例:
訓練結果から問題を改善した。
代替品を実機評価した。
バックアップデータの復元テストをした。
これを、
計画
↓
実施
↓
検証
↓
改善
で回すことがBCMにつながります。
2026年10月に内閣府で進められている新しい評価の検討でも、「計画がある」だけでなく、訓練・検証・改善まで評価する方向性が示されています。
ただし、前述のとおり現時点では検討段階です。防災情報のページ
調査票が届いたときの回答手順
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
BCP調査票が届いたら、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
1.設問を分類する
計画
人
設備
IT
調達
物流
顧客連絡
訓練
改善
に分けます。
2.現在の事実を書く
いきなり「はい・いいえ」を決めません。
実施済み。
確認中。
計画済み。
未実施。
など、現在の状態を書き出します。
3.証拠資料を紐づける
例えば、
「訓練実施済み」
なら、
2026_BCP訓練記録.pdf
のように証拠ファイルを紐づけます。
4.回答を決める
そのうえで、顧客側の選択肢や質問意図に合わせて回答します。
質問によっては、
はい
一部実施
計画中
いいえ
など複数の選択肢があります。
無理に「はい」へ寄せる必要はありません。
5.不足項目を改善管理へ回す
「いいえ」で終わらせず、
何が不足しているか
誰が担当するか
いつまでに行うか
を改善一覧へ移します。
こうするとBCP調査票そのものが、
自社BCPの点検表
として使えるようになります。
2026年のBCPは「あるか」から「機能するか」へ
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
2026年10月現在、内閣府では事業継続ガイドラインの改定に向けた検討が進んでいます。
検討資料では、
計画が存在するか
だけではなく、
訓練したか。
検証したか。
改善したか。
サプライチェーンと連携しているか。
といった実効性を評価する考え方が議論されています。防災情報のページ
現行の内閣府「事業継続ガイドライン」は2023年3月版であり、こちらでもすでに教育・訓練、文書化、点検・評価、経営者レビュー、継続的改善がBCMの主要プロセスとして整理されています。防災情報のページ
つまりBCP対応で重要なのは、
分厚い計画書を作ること
だけではありません。
「その回答の根拠をすぐ出せる状態」
を作ることです。
BCPの資料を一から作る場合
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
ここまで確認すると、
BCP基本計画。
連絡網。
重要業務一覧。
仕入先管理。
代替調達。
訓練記録。
改善記録。
など、複数の資料が必要になることが分かります。
中小企業庁からも無料のBCP様式が多数公開されているため、まず公的資料から作成する方法があります。中小企業庁
一方、
「取引先からすでに調査票が届いている」
「WordやExcelをゼロから設計する時間を減らしたい」
「記入例を見ながら自社版を作りたい」
という会社向けには、製造業サプライチェーン研究所で「はじめてのBCP対応セット」を用意しています。
Word形式のBCP基本計画14章、Excel運用台帳21シート、実施記録10種類に加え、製造業・商社・サービス業の記入例などを収録しています。note(ノート)
これはJEITAや官公庁の認定商品ではなく、特定の調査票で高評価になることを保証するものでもありません。
「実際には行っていないことを実施済みにする」のではなく、自社の現在地を確認し、足りないものを整備するための実務資料です。note(ノート)
FAQ
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
BCP計画書があれば「BCP策定済み」と回答してよいですか?
調査票の質問内容によります。
少なくとも文書が存在するかだけでなく、制定日、経営者承認、最新版管理、現在の組織との整合性まで確認した方が安全です。
訓練予定が書いてあれば「訓練を実施している」と回答できますか?
予定と実績は分けて考えた方がよいでしょう。
実施済みと回答する場合は、実施日、参加者、内容、結果などの記録を残しておくと説明しやすくなります。
代替仕入先候補があれば「代替調達可能」ですか?
必ずしもそうではありません。
価格、納期、仕様、品質、評価、顧客承認などの確認状況によって、実際に切り替えられるかは変わります。
BCPの証拠資料は取引先へすべて提出する必要がありますか?
一律ではありません。
調査依頼元の要求に従い、機密情報や個人情報を含む資料については、そのまま提出するのではなく、概要版や必要範囲のみの提示を検討する必要があります。
BCP認定を取得していれば調査票はすべて「はい」になりますか?
なりません。
例えば中小企業庁の事業継続力強化計画認定は有用な取り組みですが、個々の取引先調査票とは評価目的や質問内容が異なります。
中小企業庁は2026年も同認定制度を運用しています。中小企業庁
BCPは製造業だけ必要ですか?
製造業だけではありません。
商社でも仕入先、物流、倉庫、受発注システムなどが停止すれば供給が止まるため、事業継続の確認は必要になります。
BCP資料はどのくらいの頻度で見直せばよいですか?
一律の回数だけで判断するより、人事異動、取引先変更、設備変更、拠点変更、システム変更などがあったときに更新することが重要です。
加えて定期的な点検日を決めておくと管理しやすくなります。
まとめ
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
BCP調査票で「はい」と答える前に確認したいのは、回答そのものより回答の根拠です。
特に重要なのは、
- BCP計画書と経営者承認を確認する。
- 連絡網や仕入先一覧を最新版にする。
- 計画と実施実績を分ける。
- 訓練・代替調達・バックアップなどは実施証拠を残す。
- 調査票で見つかった不足項目をBCP改善へつなげる。
ことです。
まず自社のBCP調査票を開き、
「この回答を何の資料で説明できるか」
を1項目ずつ確認してみてください。
説明できない項目が見つかったら、そこが次に整備すべきBCP項目です。

コメント